外出の準備をしていると
カチャッとカバンの金具が鳴るたびに
ふと、気配が変わる。
あの子の耳がピンと立って
いつの間にか玄関の前に座っていた。
大きな目でじっと見つめてくる
静かだけど、心に響く視線。
「大丈夫だよ」
そう言って撫でながら
笑顔をつくるわたし。
でも、心の奥で
なぜかうっすらと
何かを誤魔化してる感じがした。
不安なのは、あの子じゃなくて
もしかしたら、わたしの方だったのかもしれない。
「置いていく」ということ。
「ひとりにさせる」ということ。
罪悪感のようなものが
どこかでわたしをぎゅっとしていた。
本当は──
自分の時間を楽しむことに
まだ許可が出せていなかったのかもしれない。
あの子がわたしを見つめるとき
その瞳は、問いかけてくる。
「ねえ、あなたはほんとうに心から出かけたいと思ってる?」
その問いに
ドキッとする。
「ごめんね」「待っててね」
その言葉の奥にあったのは
わたし自身の、心の後ろめたさだった。
もしあの子が鏡なら
わたしの何を映していたんだろう?
自分の幸せを後回しにしてしまうクセ
大切な人、大切な存在を心でコントロールしようとする無意識
「自由になってもいい」という自分への赦し
あの子は
ただ静かに、わたしにそれを教えてくれていたのかもしれない。
いつもと変わらない朝の一場面に
こんなにも深いメッセージがあったなんて。
問いかけてみる。
あの子ではなく、わたしに。
わたしは、何を感じていた?
何を怖れていた?
本当は、どうしたかった?
あの子の目は、今日もまっすぐだ。
何も責めず、何も押しつけず
ただ、見てくれている。
そのままで、いいんだよと。
わたしが、わたし自身に
そう言ってあげられたとき
きっとあの子も、
安心して背中を見送ってくれる。
今日のこの小さな気づきが
ふたりの間に
やさしい風を運んできた。
あなたが「ごめんね」と言いたくなるとき
本当に謝りたい相手は
誰ですか?
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もしかしたら、この話は
犬と飼い主さんだけのことだけではないのかもしれません。
「行ってくるね」と背中を向けたとき、
「ごめんね」とつぶやいたとき、
本当は、心の奥で何を感じていたんだろう。
誰かのまなざしに触れたとき
自分の中の、許せていなかった気持ちが
そっと浮かび上がってくることがあります。
それは、
子どもとの別れ際かもしれないし
職場の部下に声をかけるときかもしれないし
誰にも言えずにいた、ひとり時間へのためらいかもしれません。
ただ静かに感じてみてください。
その時、あなたの中にあった「ほんとうの気持ち」を。
誰も責めていなくても
あなたの心が、あなたにやさしく触れられるまで。
なにかを変えなくても
なにかを正さなくてもいいのです。
ただ、そのまま。
今ここにある気持ちに
一緒にいてあげることができたなら。
そのまなざしの奥に
あたたかなやさしさが、今日も届いています。
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犬との関係に悩む時
それはきっと、「自分自身との関係を見直す時期」でもあるのかもしれません。
一人では気づけなかったことに、
誰かの言葉やまなざしがそっと光を当ててくれることもあります。
気づきは、心の静けさの中から生まれてくるもの。
犬の行動の裏側にあるメッセージを受け取りながら、
自分自身との対話を深める時間を持ってみませんか。
愛犬のまなざしは、
あなた自身のまなざしでもあります。
もし、心の奥に何かが響いたなら——
それは、あなたの中にある「ほんとうの願い」が、
ようやく声をあげはじめた瞬間なのかもしれません。
あなたと犬、そして魂のつながりを深めていく旅。
心がふと動いたその瞬間から始まる旅を、静かに寄り添いながら歩いていけたらと思います。