聞こえなくなった「おかえり」 〜静かな距離〜

鏡としての犬たち

 

ただいま、って言ったのに
いつもの足音が聞こえない。

 

玄関のドアを開けても、
あの子はベッドから動かない。

 

前はね、
走ってきてくれていた。
しっぽを大きく振って、
鼻を鳴らしながらスリスリして。
そのぬくもりに、
わたしは毎日救われていた。

 

なのに最近は、
ちらりと顔をあげて、
目が合うだけ。

 

「おかえり」
あの子の声が、
どこか遠くに感じる。

 

冷たくなったの?
わたしに飽きたの?
どこか悪いのかな?

そんな不安が
胸にひっそりと積もっていく。

 

でも、
心の奥がそっと囁いた。

「今、あなたの心は、
 ちゃんと“帰ってきて”いる?」

 

ただいまを言いながらも
頭の中では仕事の続きを考えてた。

「ごはん作らなきゃ」「明日の予定は…」

心はまだ、どこか別の場所にいた。

 

あの子は、それを
静かに感じ取っていたのかもしれない。

 

あの子にとって「わたし」は、
安心であたたかい“場”だった。

だけど今のわたしは

どこか硬くて、とがっていて、
心ここにあらずだったのかもしれない。

 

甘えてこないあの子は、
離れたんじゃなくて、
「わたしの心の距離」を
そのまま映してくれていたのかもしれない。

 

わたしが戻ってこなければ、
あの子もきっと、迎えには来られない。

 

だから今夜は
テレビもスマホも置いて、
ただあの子の隣に座ってみる。

 

黙っていてもいい。
言葉がなくても、
ぬくもりはちゃんと伝わる。

 

「おかえり」って、
わたし自身がまず
自分に言ってあげることだったんだ。

 

そして、
「ただいま」を本当に伝えられたとき
きっとまた、
あの子の「おかえり」が聞こえてくる。

 

沈黙の向こうで、
あの子はいつも、
変わらないまなざしで
わたしを待ってくれている。

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迎えられない寂しさに気づいたとき

「ただいま」が響かない、あの静けさの理由

玄関の扉を開けたときに感じる、小さな違和感。
あの子が来ない、という“変化”の中に、何とも言えない寂しさが広がります。

かつては無邪気に駆け寄ってくれたはずの存在が、
今はただ静かにこちらを見るだけ。

「どうして?」という問いが、心の中に静かに積もっていきます。

けれど、その答えはあの子の中ではなく、
わたしたち自身の内側にあるのかもしれません。

 

忙しさに置き去りにされた「今ここ」

心が不在のままの日常に、ふたりのすれ違いが生まれる

生活の中で、つい先のことばかり考えてしまう。
予定、仕事、やらなければならないこと…。

でも、「帰宅する」という行為があっても、
わたしの“心”は、ちゃんと戻ってきていたでしょうか?

あの子は、言葉ではなく「在り方」を見ているのかもしれません。

どこか余裕のないわたしの空気を、
敏感に感じ取り、そっと距離をとっているだけなのです。

それは「無関心」ではなく、
ただ静かに、“こちら”の心の状態を映してくれている姿。

 

離れたのではなく、映し出しているだけ

まなざしの奥には、変わらぬ信頼がある

甘えなくなった。反応が薄くなった。
そんなふうに見える態度の裏にあるのは――「がっかり」ではありません。

むしろ、
“本当のあなたが戻ってくるのを、静かに待っている”というサインなのかもしれません。

関係性が変わったわけじゃない。
ただ、今のわたしの心の“硬さ”や“余裕のなさ”が、映っているだけ。

あの子の行動に隠されたメッセージは、いつも優しい。
わたしが戻ってくる場所を、変わらず守ってくれているのです。

 

「ただいま」は、自分への合図でもある

あたたかさは、わたしの内側から広がっていく

もしかしたら、一番最初に必要だったのは、
あの子に向けた「ただいま」ではなく――

自分自身に対しての「おかえり」だったのかもしれません。

帰る場所は、家だけじゃなくて、心の居場所。
そこに自分を迎え入れてあげることで、
ようやく誰かとの繋がりも、自然と育っていきます。

今日は何もせず、ただそばにいるだけでいい。
その沈黙が、ぬくもりを運んでくれるから。

 


そっと心に問いかけて

「わたしの心は、今どこにいる?」
「“戻ってくる場所”を、ちゃんと大切にできてる?」

誰かに求める前に、
自分の中にやさしく戻ってくること。

その静かな選択が、
またひとつ、ふたりの関係をやわらかく結び直してくれるのかもしれません。

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🌱犬との関係に悩むとき

犬との関係に悩む時
それはきっと、「自分自身との関係を見直す時期」なのかもしれません。

一人では気づけなかったことに、
誰かの言葉やまなざしがそっと光を当ててくれることもあります。

気づきは、心の静けさの中から生まれてくるもの。

犬の行動の裏側にあるメッセージを受け取りながら、
自分自身との対話を深める時間を持ってみませんか。

愛犬のまなざしは、
あなた自身のまなざしでもあります。

もし、心の奥に何かが響いたなら——
それは、あなたの中にある「ほんとうの願い」が、
ようやく声をあげはじめた瞬間なのかもしれません。

あなたと犬、そして魂のつながりを深めていく旅。

心がふと動いたその瞬間から始まる旅を、
静かに寄り添いながら歩いていけたらと思います。

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